2025.01.01の形で記載
創業1975年の銀座レストランから贈る、 ステーキ堪能マニュアル
――創業1975年の銀座レストランから贈る、
ステーキ堪能マニュアル
はじめに――ステーキという「特別なごちそう」
当店は1975年に銀座に創業したレストランです。
オープンした当時、ステーキは本当に「最高級のごちそう」でした。
鉄板の上でジュウジュウと音を立てる分厚いお肉。
ナイフを入れると、香ばしい焼き目の下から肉汁があふれ出し、そのひと口が家族の笑顔や記念日の思い出とともに、深く心に刻まれていく――そんな特別な料理だったのです。
半世紀近くが経ち、時代は大きく変わりました。
食の選択肢は豊かになり、海外の料理も身近になり、高級食材も以前より手に入りやすくなりました。牛肉もいろいろなお召し上がり方が普及致しました。
けれど、それでもなお、ステーキには「特別な時間を彩る力」があります。
記念日に、大切な人との食事に、一年の締めくくりに。ステーキは今も、私たちの人生の節目を彩る料理として愛され続けています。

少しだけ感じる、ためらいと不安
しかし、こんな声を耳にすることがあります。
「ステーキを注文したいけれど、焼き加減ってどう選べばいいの?」
「レアとかミディアムとか、違いがよくわからない」
「部位によって味が違うって聞くけど、何を選べばいいのかわからない」
「高いお肉を頼んで、もし自分の好みじゃなかったらどうしよう」
こうした不安から、本当はステーキを食べたいのに、他の料理を選んでしまう。
せっかくの特別な日なのに、失敗したらどうしようと不安になり、心からは楽しめない――
そんなもったいない経験をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、年末を控えた今、私たちからステーキをご堪能いただくためのマニュアルを作成いたしました。このマニュアルでは、ステーキの王道であるサーロインとフィレに絞り、それぞれの美味しさと、焼き加減の選び方をやさしくご案内いたします。
初めての方も、久しぶりの方も、どうぞ安心してお読みください。年末のひとときが、心に残る「ごちそう時間」となりますように。
サーロインとフィレ――二大部位の魅力を知る
ステーキの美味しさを深く味わうために、まず知っておきたいのが部位の違いです。数ある部位の中でも、特に人気が高く、王道と呼ばれるのがサーロインとフィレ。この二つの違いを理解することで、ステーキ選びがぐっと楽しくなります。
サーロイン――力強い旨味と香ばしさの王道
サーロインは、ステーキの代名詞とも言える部位です。
牛の背中の中央部に位置し、赤身と脂のバランスが絶妙。適度にサシ(霜降り)が入り、焼くことで脂が溶け出して肉全体にコクが広がります。香ばしい焼き目をつけてナイフを入れると、噛むほどにあふれる旨味――「ステーキらしいステーキ」とは、まさにこのことです。
サーロインの魅力は、その力強さにあります。肉々しい食感、脂の甘み、焼いたときの香ばしさ。すべてが「肉を食べている」という満足感を与えてくれます。赤ワインとの相性も抜群で、一口ごとに幸福感が広がります。
「ステーキと言えばサーロイン」と言われる理由は、この力強く、それでいて上品な旨味にあるのです。脂の甘みを活かすために、ミディアムレアからミディアムがおすすめですが、しっかり火を通したウェルダン(ビアン・キュイ)でも、脂のコクが残るため十分な満足感があります。
フィレ――やわらかく、繊細な赤身の贅沢
一方、フィレは牛肉の中で最も希少な部位です。
牛の腰の内側、ほとんど動かさない部分にあるため、脂が少なく、筋もほとんどありません。その結果、驚くほどやわらかく、上品な味わいになります。「ヒレ」とも呼ばれ、一頭の牛からわずかしか取れない貴重な部位です。
フィレの魅力は、その繊細さにあります。脂っこさがなく、赤身本来の旨味を純粋に味わえる。ナイフがすっと入るやわらかさは、まるでバターのよう。口の中でほろりとほどけていく食感は、他の部位では味わえない贅沢です。
「脂っこいものが苦手」「赤身をじっくり味わいたい」「やわらかいお肉が好き」という方には、フィレが最適です。年配の方や、胃に負担をかけたくない方にも喜ばれます。
フィレは、繊細な旨味を活かすためにレアからミディアムレアが理想的です。火を通しすぎるとパサつきやすいため、焼き加減には少し注意が必要ですが、ミディアムでも十分に美味しく、やさしい口当たりが楽しめます。
焼き加減の世界――好みを知ることで、ステーキはもっと美味しくなる
ステーキの焼き加減は、肉の中心部の火の通り具合によって決まります。同じ部位でも、焼き加減によって食感も味わいも大きく変わるのです。
レア――生に近い、肉本来の旨味
表面だけに焼き色をつけ、中心部は生に近い状態。肉の温度は低く、赤い部分が多く残ります。
肉本来の旨味を最もダイレクトに感じられる焼き加減。やわらかく、ジューシーで、肉汁がたっぷり。新鮮で質の高い肉でこそ味わえる贅沢です。
フィレのレアは、まさに「肉の宝石」のような美しさと繊細さがあります。一方、サーロインのレアは、脂がまだ完全に溶けていないため、好みが分かれるかもしれません。
ミディアムレア――ステーキの王道、バランスの良さ
表面は香ばしく焼き、中心部はピンク色。肉汁が豊富で、やわらかさと旨味のバランスが最高の状態です。
多くのシェフが「ステーキの理想の焼き加減」と考えるのが、このミディアムレア。肉の旨味、やわらかさ、香ばしさのすべてが調和する、まさに黄金比です。
サーロインもフィレも、ミディアムレアで最も魅力が引き出されます。初めてステーキを注文する方、焼き加減に迷った方には、まずこれをお試しいただきたい焼き加減です。
ミディアム――日本人に最も人気、安心の選択
中心部までほんのりピンク色が残る程度。肉汁はしっかり保たれ、食感はやわらかめ。
日本人に最も人気がある焼き加減が、このミディアムです。生っぽさがほとんどなく、それでいてパサつかない。肉の旨味も十分に感じられ、どの部位でも失敗が少ない、安心の選択肢です。
「生肉はちょっと苦手」「でも固くなるのも嫌」という方には、ミディアムが最適。サーロインの脂もほどよく溶け、フィレのやわらかさも保たれる、バランスの良い焼き加減です。
ミディアムウェル――しっかり火を通しつつ、ジューシーさを保つ
中心部までほぼ火が通り、ピンク色はわずか。肉汁は少なめですが、まだジューシーさは残っています。
「生っぽいのは絶対に嫌」だけど「固くなりすぎるのも困る」という方に適した焼き加減。サーロインなら、脂がしっかり溶けて香ばしさが増します。
ウェルダン(ビアン・キュイ)――しっかり焼いた、安心の火通し
中心部まで完全に火が通り、茶色い状態。肉汁は少なくなりますが、しっかりとした食感と、焼き固められた旨味があります。
「生肉は絶対に食べたくない」という方、海外からのお客様で「ビアン・キュイで」とご注文される方には、このウェルダンです。
フィレはパサつきやすくなるため、あまりおすすめしませんが、サーロインなら脂のコクが残るため、満足感があります。しっかり噛みしめる食感を好む方には良い選択肢です。
焼き加減の選び方――あなたの好みはどれ?
では、実際にどう選べばよいのでしょうか。いくつかの視点から、選び方をご提案します。
初めてステーキを注文する方
→ミディアムが安心。どの部位でも失敗が少なく、美味しくいただけます。
肉本来の味わいを楽しみたい方
→レアかミディアムレア。特にフィレのミディアムレアは絶品です。
生っぽさが苦手な方
→ミディアムからミディアムウェル。しっかり火を通しても、ジューシーさは保たれます。
脂の甘みを堪能したい方
→サーロインのミディアムレアからミディアム。脂が溶けて、最高のコクが味わえます。
やわらかさ重視の方
→フィレのレアからミディアムレア。驚くほどやわらかく、口の中でとろけます。
海外の方、しっかり火を通したい方
→ウェルダン(ビアン・キュイ)。安心して召し上がれます。
迷ったときは、「ミディアムでお願いします」と伝えるのが最も失敗が少ない方法です。レストランのスタッフに「初めてなので、おすすめの焼き加減を教えてください」と聞くのも良いでしょう。私たちは喜んでご案内いたします。
ステーキ焼き加減一覧
焼き加減:ブルー
英語表記:Blue Rare
フランス語表記:Bleu
特長:表面だけ焼いた超レア。ほぼ生に近い
おすすめ部位:フィレ(上級者向け)
焼き加減:レア
英語表記:Rare
フランス語表記:Saignant
特長:中心が赤く、肉汁たっぷり
おすすめ部位:フィレ、サーロイン
焼き加減:ミディアムレア
英語表記:Medium Rare
フランス語表記:À point
特長:中心がピンクでジューシー
おすすめ部位:サーロイン、フィレ
焼き加減:ミディアム
英語表記:Medium
フランス語表記:Cuit
特長:ほどよく火が通り、食べやすい
おすすめ部位:サーロイン
焼き加減:ウェルダン
英語表記:Well-done
フランス語表記:Bien Cuit
特長:中までしっかり火が通っている
おすすめ部位:サーロイン(脂が多い部位)

ナイフとフォークで、ステーキを美しくいただく
ステーキを美しく、そして美味しくいただくためには、ナイフとフォークの使い方にも少しだけ気を配りたいものです。
基本の持ち方
フォーク(左手):肉をしっかり押さえるために、刃先を下向きにして持ちます。人差し指を柄の上に添えると、安定します。
ナイフ(右手):刃を斜めに当て、力を入れすぎず、前後に軽く動かして切ります。無理に押し切ろうとせず、ナイフの重さを利用するのがコツです。
切るときのコツ
一度に大きく切らない:一口サイズに少しずつ切るのがスマートです。全部切ってから食べるのではなく、一口ずつ切りながら食べることで、熱々の状態を保てます。
肉の繊維を意識する:肉の繊維に対して垂直に切ると、やわらかく感じられます。特にサーロインなど、繊維がはっきりしている部位では効果的です。
肉汁を逃がさない:焼き加減によっては、切ると肉汁があふれ出ます。皿の端で切るようにすると、肉汁が皿に広がらず、美しく保てます。また、その肉汁にパンをつけて食べるのも、フランス料理の楽しみ方の一つです。
食べる順番も楽しみのひとつ
ステーキは、一皿で何度も味の変化を楽しめる料理です。
最初は、何もつけずに:肉本来の味を確かめます。塩と胡椒だけで仕上げられた肉の旨味、焼き目の香ばしさ、肉汁の甘み。それらをまず純粋に味わいましょう。
次に、塩や胡椒、ソースで:用意されたソースや、テーブルの調味料で味の変化を楽しみます。同じ肉でも、ソースによって表情が変わる面白さがあります。
最後に、付け合わせの野菜やワインと合わせて:グリルされた野菜やポテト、ワインと一緒に味わうことで、口の中で新しいハーモニーが生まれます。余韻を楽しみながら、ゆっくりと食事を締めくくりましょう。
ステーキは、五感で味わうごちそう
ステーキの魅力は、味だけではありません。
鉄板の上でジュウジュウと音を立てる音。
香ばしく焼けた肉の香り。
美しい焼き色と、溢れる肉汁の視覚。
ナイフを入れたときの手応え。
そして、口に運んだ瞬間の味わい。
五感すべてで楽しむことで、ステーキは単なる食事を超えた「体験」になります。
年末のひととき、大切な人と向かい合い、ゆっくりとステーキを味わう。焼き加減を選び、部位の違いを知り、ナイフとフォークで丁寧にいただく。そのひとつひとつが、この一年の締めくくりを豊かに彩ってくれます。

おわりに――心に残る一皿を、あなたに
1975年の創業以来、私たちは数え切れないほどのステーキをお客様にお届けしてきました。
記念日に訪れたカップル、昇進祝いに選ばれたビジネスマン、家族の集まりで賑わうテーブル。それぞれの方に、それぞれの物語があり、ステーキはその物語の一部になっています。
この年末、あなたにとって心に残る一皿を。
ご来店を、心よりお待ちしております。
注目の記事PICK UP!
新着の記事ランキング