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9月9日重陽の節句2025.09.09




秋の香りとともに
——重陽の節句に寄せて


—忘れられゆく雅な節句


9月9日、「重陽の節句」。現代の暮らしの中では、3月3日ひな祭りや5月5日端午の節句ほど馴染みがないかもしれませんが、かつては五節句の中でも最も重要視された特別な日でした。奇数を「陽」とする中国の陰陽思想に基づき、陽数の最大値「九」が重なるこの日は、古来より長寿を願う祈りの込められた神聖な時として大切にされてきました。


陽数の中でも「九」は最高位の数であるため、「九」が重なる9月9日が特別な日とされたのです。また「九」は皇帝を象徴する数でもあり、故宮の赤い扉の金鋲が81個なのも9×9、つまり至高の数であることを意味しています。中国ではこの日に高いところで菊酒を飲む風習がありました。


この節句が日本に伝わったのは平安時代。宮中では菊を愛で、菊酒を酌み交わす雅な風習が育まれました。貴族たちはかぐわしい菊の花を浮かべた盃で長寿を祝い、詩を詠み合う優美な時間を過ごしていました。時代が流れ、武家社会、江戸時代を経て庶民にも広まった重陽の節句は、秋の収穫期と重なることで、自然の恵みに感謝する豊穣の祭りとしての色合いも濃くなっていきました。



菊花に込められた祈り——不老長寿への憧憬


重陽の節句の主役といえば、やはり菊の花です。中国では菊を「君子の花」と呼び、その気品ある姿と霜に負けない強さから、高潔さと長寿の象徴とされてきました。日本でも平安時代以降、菊は皇室の紋章として採用され、格式高い花として愛され続けています。


菊酒の習慣は、単なる酒宴ではありません。菊の花びらを酒に浮かべることで、その薬効を取り入れ、邪気を祓い、長寿を願うという深い意味が込められています。菊には解毒作用や血行促進効果があるとされ、漢方においても重要な薬草の一つです。平安の貴族たちは、菊の香りに包まれながら盃を重ね、来たる冬への備えと翌年への希望を語り合ったのでしょう。


現代でも、菊花茶として親しまれる菊は、目の疲れを癒し、心を落ち着かせる効果があるとされています。デジタル社会に生きる私たちにとって、菊の持つ穏やかな癒しの力は、むしろ今こそ必要なものかもしれません。



秋の福食——大地の恵みと先人の知恵


重陽の節句の福食として古くから親しまれているのが、栗ごはん・茄子・菊酒です。これらの食材が選ばれたのには、それぞれに深い理由があります。



栗ごはん——山の恵みと秋の象徴


栗は、まさに重陽の節句の時期に旬を迎える山の幸です。縄文時代から日本人の食生活を支えてきた栗は、その甘みとほくほくとした食感で、秋の訪れを告げる代表的な食材となりました。栗に含まれるビタミンCは熱に強く、風邪予防にも効果的。また、でんぷん質が豊富で、寒い季節に向けて体力をつける意味もあります。


栗ごはんを炊く時の香りは、まさに秋の象徴。炊飯器を開けた瞬間に立ち上る湯気とともに広がる甘い香りは、季節の移ろいを五感で感じさせてくれます。一粒一粒の栗が醸し出すほのかな甘みは、米の旨みと調和し、素朴でありながら深い味わいを生み出します。



茄子——無病息災への願い


「くんち(九日)に食べると中風(ちゅうぶ)にならない」という言い伝えがある茄子は、重陽の節句には欠かせない福食です。この時期の茄子は、夏の疲れを癒やし、体を整える効果があるとされ、古くから薬膳としても重宝されてきました。


茄子に含まれるナスニンという成分には抗酸化作用があり、血管の健康を保つ働きがあります。また、体を冷やす性質があるため、夏の暑さで疲れた体をクールダウンし、秋への体調管理に役立ちます。焼き茄子、煮浸し、田楽など、様々な調理法で楽しまれる茄子は、その深い紫色も美しく、食卓に秋の彩りを添えてくれます。


御碗 焼き茄子 海老真丈


季節を紡ぐ日本の食文化——自然との対話


日本の食文化の特徴は、四季の移ろいを敏感に感じ取り、その時々の自然の恵みを大切にすることです。重陽の節句に限らず、日本の年中行事には必ずその季節ならではの食べ物が登場します。これは単なる習慣ではなく、自然のリズムに合わせて生きる先人たちの知恵の結晶なのです。


秋は実りの季節であると同時に、冬への準備の季節でもあります。夏の疲れを癒し、寒い季節に向けて体力をつける——そんな体のリズムに合わせて選ばれた食材たちは、まさに自然からの贈り物といえるでしょう。


月見には月見団子と里芋、秋祭りには新米と秋刀魚、そして重陽の節句には栗と茄子と菊酒。それぞれの行事に込められた食の物語は、私たちの心と体を季節のリズムに合わせて整えてくれる、優しい処方箋のようなものです。



現代に生きる重陽の節句——失われゆく季節感を取り戻す


現代社会では、季節を問わず様々な食材が手に入り、エアコンによって年中快適な環境で過ごすことができます。便利になった反面、私たちは季節の移ろいを感じる機会を失いつつあるのかもしれません。


そんな今だからこそ、重陽の節句のような伝統的な行事が持つ意味は大きいのです。菊の花を愛で、旬の栗や茄子を味わうことで、私たちは自然のリズムを思い出し、季節とともに生きる喜びを再発見することができるのです。


重陽の節句、菊の花を浮かべた日本酒や菊花茶を楽しんでみてはいかがでしょうか。栗ごはんには、きのこや銀杏を加えて秋の味覚満載の炊き込みご飯にしたり、茄子は洋風にラタトゥイユにしても美しい紫色が映えて素敵です。



心と体を整える秋のひととき


栗の甘み、茄子の柔らかさ、菊の香り——それぞれが、秋の声を伝えてくれるようです。これらの食材を通して、私たちは自然の恵みに感謝し、季節の移ろいを心と体で感じることができます。


重陽の節句という古い慣習を現代に蘇らせることで、私たちは忙しい日常の中でも、ほんの少し立ち止まって季節を感じる時間を持つことができるでしょう。それは、心の豊かさを育み、体の調子を整える、現代人にこそ必要なひとときなのかもしれません。


どうぞ、秋の福食を通して、心と体を整える特別なひとときをお過ごしください。菊の香りに包まれながら、静かに季節の深まりを感じ、来たる冬への準備と、新しい季節への希望を胸に抱いて。


重陽の節句が私たちに教えてくれるのは、自然とともに生きる喜びと、季節の恵みに感謝する心。そして、美しい伝統を次の世代へと繋いでいく大切さなのです。






日本料理 香川では、菊花と占地の真砂和え、栗ご飯が入ったお献立を9月11日よりご用意いたしております。その他お料理も秋の恵みを厳選して調理いたしております。


ご予約の際は、ぜひお声かけくださいませ。 個室のご用意もございます。


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