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秋のお彼岸に寄せて 季節と祈りを味わう花会席2025.09.17




秋のお彼岸に寄せて
季節と祈りを味わう花会席


お彼岸という静寂の時間


昼と夜の長さがほぼ等しくなる秋分の日。自然が静かに調和するこの時期、日本では「お彼岸」と呼ばれる特別な七日間が訪れます。2025年の秋のお彼岸は、9月20日(土)から26日(金)まで。中日となる秋分の日(9月23日)は、太陽が真東から昇り真西に沈む日として、古来より特別な意味を持ってきました。
お彼岸とは、仏教の教えに基づくご先祖様への感謝と供養の期間です。「彼岸」という言葉は、サンスクリット語の「波羅蜜多(パーラミター)」の漢訳「到彼岸」に由来します。私たちが住む現世を「此岸(しがん)」、煩悩を離れた悟りの境地を「彼岸」と呼び、この時期は現世から悟りの境地へと心を向ける、静かな祈りの時間となるのです。
特に秋分の日は、太陽が真西に沈むことから、西方にあるとされる極楽浄土に最も近づく瞬間とも言われています。この日を中心とした七日間は、ご先祖様との距離が最も近くなる神聖な期間として、古くから大切にされてきました。



おはぎに込められた祈り


お彼岸の代表的な供物といえば「おはぎ」です。もち米を炊いて、粒あんで包んだこの素朴な一品には、深い意味が込められています。
興味深いことに、同じ食べ物でも季節によって呼び名が変わります。春には「ぼたもち(牡丹餅)」、秋には「おはぎ(御萩)」。この違いは、それぞれの季節に咲く花に由来しています。春は牡丹の花、秋は萩の花——それぞれの花の美しさに見立てた、日本人の繊細な季節感の表れです。
また、製法にも季節への配慮があります。春のぼたもちは、冬を越して硬くなった小豆をこしあんにすることが多く、秋のおはぎは、その年に収穫したばかりの柔らかい小豆を粒あんのまま使います。牡丹の花のように丸く大きく、萩の花のように小ぶりで上品に——形にまで季節の美意識が反映されているのです。



小豆に宿る魔除けの力


小豆の鮮やかな赤色は、単なる彩りではありません。古来より、この赤は魔除けの色として信じられてきました。小豆は日本だけでなく、中国や韓国でも神聖な食べ物とされ、その理由は深い文化的背景にあります。
赤という色は、太陽、火、血を象徴する生命の色です。中国最古の薬物書『神農本草経』には、小豆の煮汁が解毒剤として使われていた記録が残されており、古代から「陽」の気を持つ食材として重要視されていました。この「陽」の力が「陰」の災いや邪気を祓うと考えられ、季節の変わり目や人生の節目に小豆料理を食べる風習が生まれたのです。
韓国の冬至に食べる「パッチュク(小豆粥)」や、日本の小正月の小豆粥、そしてお祝い事の赤飯——これらすべてに共通するのは、小豆の持つ魔除けの力への信仰です。おはぎを供えることは、ご先祖様への感謝とともに、家族の無事と健康を願う心の表れでもあります。



精進料理からの発想


伝統的なお彼岸の食事は、殺生を避けた精進料理が基本とされてきました。命あるものを慈しむ仏教の教えに従い、野菜、豆類、穀物を中心とした料理で、心を清めながらご先祖様を供養するのです。
しかし、現代の食文化では、こうした精神性を受け継ぎながらも、より豊かな表現で季節の恵みを味わうことも可能になりました。大切なのは、食材への感謝の心と、季節の移ろいへの敬意です。その精神を現代の会席料理に昇華させることで、お彼岸の深い意味をより多くの人々と分かち合えるのではないでしょうか。



花会席に込めた秋の祈り


今回ご提案する花会席は、お彼岸 秋を表現した献立です。一品一品に、秋の深まりと祈りの心を込めました。


花会席


先付 翡翠茄子 蒸鮑 銀杏


前菜 春菊と占地の真砂和え
栗と菊花のチーズ寄せ
ふぐ一夜干し
里芋田楽
磯つぶ貝旨煮
零余子塩蒸し
かます小袖寿司


御椀 鱧と松茸の土瓶蒸し


造里 旬魚三種盛り
芽物一式


焼物 黒毛和牛サーロインステーキ
焼野菜


温物 菊花蕪海老射込み
法蓮草 黄菊 生姜餡


強肴 秋刀魚梅肉揚げ
すだち 煎り出汁


御食事
松茸御飯
香物 止椀


水菓子
柿 シャインマスカット
梨密煮


甘味 菊の着せ綿


先付の翡翠茄子は、夏の終わりから秋への移ろいを表現。茄子の深い紫色は高貴さを、翡翠色の美しい仕立ては清浄さを象徴しています。蒸鮑と銀杏を添えることで、海の恵みと山の恵みへの感謝を込めました。
前菜の数々には、特に秋らしい工夫を凝らしました。零余子(むかご)の塩蒸しは、山芋のつるになる小さな実を使った一品。この零余子は「子孫繁栄」の象徴とされ、ご先祖様から続く命の連鎖への感謝を表現しています。栗と菊花のチーズ寄せでは、栗の自然な甘みと菊の気品ある香りを合わせ、重陽の節句からお彼岸へと続く秋の風情を演出しました。
御椀の鱧と松茸の土瓶蒸しは、この時期ならではの贅沢な一品です。鱧の上品な旨みと松茸の芳香が、秋の訪れを告げる椀物として格別の味わいを生み出します。土瓶蒸しという調理法は、素材の持つ本来の美味しさを最大限に引き出すもので、食材への敬意を表す調理法でもあります。
温物の菊花蕪海老射込みでは、菊の花を主役に据えました。菊は古来より邪気を祓い、長寿をもたらす花として親しまれています。お彼岸の象徴的な花でもある菊を、上品な蕪と合わせることで、浄化と感謝の心を表現しています。法蓮草の緑と黄菊の色合いが、秋の野の美しさを想起させます。
御食事の松茸御飯は、まさに秋の王様とも言える松茸を主役にした一品です。松茸の持つ独特の香りは、「香り松茸、味しめじ」と言われるように、日本人が最も愛する秋の香りです。この香りには、山の神々への畏敬の念が込められており、自然の恵みへの感謝を深く感じさせてくれます。
甘味の菊の着せ綿は、重陽の節句の風習に由来する雅な甘味です。菊の花に綿を着せて露を含ませ、その露で身を清めるという古来の風習を、現代的な甘味として表現しました。この一品には、長寿への願いと心身の浄化への祈りが込められています。
銀座という場所で味わう静寂


銀座の喧騒の中にあっても、料理を通じて季節の移ろいと祈りの心を感じることができる——これこそが、現代における食の持つ力なのかもしれません。都市生活の中で忘れがちな自然のリズムや、ご先祖様への感謝の心を、一皿の料理が思い出させてくれるのです。
個室でのお食事は、ご家族が静かに語り合う場としても最適です。普段は忙しい日々を過ごすご家族が、お彼岸という特別な時期に集い、季節の味覚を通じて心を通わせる——そんなひとときを提供できれば幸いです。



世代を越えた味わい


花会席の献立は、幅広い年代の方にお楽しみいただけるよう配慮しています。ご年配の方には懐かしい季節感を、若い世代には新鮮な発見を——そんな思いを込めた品々です。
お彼岸の集まりは、しばしば三世代、四世代が顔を合わせる貴重な機会でもあります。おじいさま、おばあさまから孫へと語り継がれる家族の歴史や思い出話に、季節の味覚が彩りを添えることでしょう。
記憶に残る物語としての食事
お客様の記憶に残るのは、味だけではありません。その料理に込められた物語、季節への思い、そして大切な人と過ごした時間——これらすべてが一体となって、忘れがたい体験となるのです。
花会席を召し上がっていただく際には、ぜひその背景にある季節の移ろいや、食材に込められた祈りの心にも思いを馳せていただければと思います。一口一口に込められた物語が、お食事の時間をより豊かなものにしてくれるはずです。



日本古来の文化習慣で絆を深める


お彼岸という特別な時期に、ご家族とともに季節の恵みを味わうひととき——それは単なる食事を超えた、心の栄養となる体験です。ご先祖様への感謝の気持ちを胸に、自然の恵みに舌鼓を打ちながら、大切な人との絆を深める。
そんな時間を、銀座の静かな一角で過ごしていただけるよう、心を込めておもてなしさせていただきます。秋のお彼岸の花会席が、皆様にとって特別な思い出となりますように。


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